2013年7月4日木曜日
グルーズの少女
東京藝術大学大学美術館の「夏目漱石の美術世界展」へ行った。平日の昼間にもかかわらず、思いのほか混んでいた。考えてみれば美味しい企画だ。美術愛好家と文芸愛好家、その両方の愛好家達の来場が見込める訳だから。この企画を考えた学芸員の着眼点は素晴らしい。
展示作品は、美術愛好家の漱石が作品の中で言及した絵画、同時代の画家達の作品、彼らが装丁した漱石の小説などだ。小説の中に出てくるが実在しない作品を2点、実際に制作させてもいる。夏目漱石の美術観がよく分かった。
彼の好みは文人趣味だ。作家だから当たり前だが。絵そのものが圧倒的な存在感を放つ力強い作品より、物語の一場面を描いたり、物語を連想させるような叙情的で優美な作品を好んだようだ。私にもその傾向があり、彼と同じく英国愛好家でもあるので、彼の趣味には馴染みやすかった。
一番気に入ったのは、ジャン・バティスト・グルーズの「少女の頭部像」(図)だ。少女というよりは若い女だ。大人になりかけた少女、未熟と成熟のあわいの揺らぎの時期で、官能的でありながら幼く、清純だ。『三四郎』に出てくるそうだが、覚えていない。ヒロインの美禰子がこんな雰囲気だそうだが、これなら若い三四郎が惹かれるのも無理はない。私もこの絵の前に長いこと立っていた。男性達もこの小さな肖像画の前で足を止めるので、絵の前はいくらか混んでいた。
今日は朝から東京国際ブックフェアへ行き、駆け足で会場を周った。イタリアの本だけはじっくり見たが、ブックデザインが素晴らしかった。
お昼はアメヤ横丁で、屋台の上海料理を頂いた。「小籠包専門店」の看板を掲げるだけあって、出来立ての小籠包は少し不恰好だが熱々で美味しかった。
というわけで、今、舌には小籠包の味が、網膜にはふくよかで官能的なグルーズの少女の映像が焼き付いている。
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