2010年7月2日金曜日

マネとモダン・パリ展


最近、私はパリづいている。林芙美子の『下駄で歩いた巴里』を読み終えたばかりだし、今日は三菱一号館美術館の「マネとモダン・パリ」展へ行った。三菱一号館はジョサイア・コンドルの設計で、東京都庭園美術館と同じく建物自体に歴史的な価値がある。展示室と展示室をつなぐガラス張りの廊下から見下ろす中庭も、いい目の保養になった。この中庭は丸の内のビル街の谷間に造られた物で、地上からの眺めより2階、3階から俯瞰的に眺めるほうがより素晴らしさを味わえる立体的な造りで、人工の美の巧緻を感じさせるものだった。
都市の中の美術館をコンセプトとしたこの美術館の開館記念展の第1弾として、パリに生まれ、パリを描いたマネの代表作と、同時代のパリを描いた絵や写真を展示したのが当「マネとモダン・パリ」展なのだが、ゾラやモーパッサンの小説を彷彿とさせる、パリが世界の都であり、芸術の都であった時代の雰囲気と、明治期の煉瓦の洋館が醸し出す独特の雰囲気が呼応し合い、不思議な効果を挙げていた。
と言っても、マネを特に好きという訳ではない。マネは日本人が最初に触れる洋画の典型で、大御所過ぎて食傷気味だからだ。それで大した期待も持たずに行って、と言うのは銀座で買いたい物が幾つかあったので、買い物と美術鑑賞とどちらが主体だか分からない心持ちで出掛けたのだ。
だから特に深い感銘は受けなかったが、さすがマネ、素晴らしいとは思った。ポスターピースの「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」(上図)と、「ラティユ親父の店」は殊に良かった。前者は画家であり、後にマネの義妹となったベルト・モリゾの肖像で、モデルと画家の間で交わされていたであろう親愛の情や同業者としての尊敬が画面から漂って来る秀作だ。後者はマネが贔屓にしていたガーデン・レストラン「ラティユ親父の店」での、一組のカップルを描いたものだ。晴れた午後、戸外のテーブルで語り合う若い男女、女の顔を覗き込む青年の生き生きした表情は、誰もが通る青春の恋の喜びの一瞬を捉えている。
ところで鑑賞の後半からお腹が空いてきた。空腹と疲れを引きずって美術館を出て、銀座などで予定した買い物を済ませて帰りの電車に乗った頃に、マネの「レモン」が浮かんで来た。一個のレモンを描いた小品で、別段マネでなくとも描けそうな変哲もない物だが、妙に惹かれた。絵葉書を買っておけば良かったと思った。

ふだんは和食党だが、洋画展へ行くと洋食が食べたくなるので、今晩はスパゲッティにすることにした。家の近くのスーパーに寄ったら、箱詰めのトマトが売られていた。真っ赤に熟して艶々したトマトがいかにも美味しそうで、それでも普段なら迷うところだが、疲れて判断能力も鈍っているところで一箱買った。これでトマトソースを作り、オムレツやピザに使うつもりだ。
その他、今日は沖縄の物産館「銀座わしたショップ」で、宮古島産のドラゴンフルーツのジャムなどを買い、山形の物産館「おいしい山形プラザ」で桜ん坊の酢漬けを買った。ドラゴンフルーツジャムは明日のブランチに―明日も寝坊するに決まっているので―食べる予定だ。
このようにして、私の思考と生活は食事を中心に回っていく。

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