2015年7月12日日曜日

「生命大躍進展」国立科学博物館

10日に国立科学博物館の「脊椎動物のたどった道 生命大躍進展」へ行った。金曜の夜にしては意外なほど混んでいた。地球の40億年前からの生命の軌跡を辿るという、実にどうも気の長い企画展だ。生命の痕跡とされる炭素が残る37億年前の化石の展示から始まるので、恐竜の化石に辿りついた時には旧い知り合いに会ったような気がした。一昨年、この博物館で「大恐竜展」を友人親子と一緒に観たのを思い出す。
街中に住み、ペットも飼っていないので、熊や猪のように脅威を与える動物に遭遇することもなく、人間より力の勝る「猛獣」たちは動物園の檻の中で、檻の外にいるのは野良猫や雀の類ばかりという生活を送っていると、人類の優越性を自明のものと感じていたが、トンデモない、ヒトは40億年の間に絶滅と繁殖を繰り返してきた無数の生物種の一つに過ぎないのだ、と謙虚な気持ちにさせられた。
一番印象に残っているのは、二本足で直立歩行を始めた猿人だか原人の足跡の化石のレプリカだ。2、3の猿人が柔らかな火山灰に大小の足跡を残した後、その上に更に降り注いだ火山灰によって残された足跡で、砂浜を歩く親子連れの足跡がそのまま化石化した感じだ。父親と子ども、その少し後を歩く母親の猿人の想像上の復元図が展示されていた。足跡の僅かな痕跡からこれだけの事を推測するのだから、考古学者というのは詩人や名探偵顔負けの想像力と観察力の持ち主だと思い、ゴーチェの『ポンペイ夜話』を連想した。ポンペイの発掘品の黒い熔岩の塊に見事な乳房と脇腹の断片を認めた青年が、古代ローマへタイムスリップしてその胸の持ち主だった美女と出会うという短篇だ(スタイル抜群で顔はイマイチ、という女性だって大勢いるはずだが……)。40億年の歴史を辿って来た後では、ヴェスヴィオ火山の噴火も東日本大震災と同じぐらい最近の出来事に感じられた。主人公の19世紀フランスの夢想家の青年も、古代ローマの美女も、私と同じホモ・サピエンという人類の種の一つに属していることを知れば、人種差別など実に馬鹿げたものだと思った。