2008年11月30日日曜日

サボりの言い訳

  「翻訳のテキストに集中したいので、最近は小説を読んでいなくてストレスが溜まっています」と友人へのメールに書いておきながら、この週末にはクロフツのフレンチ警視物を読んでいました。いかにも翻訳調の生硬な訳だなぁと思って翻訳者の略歴を見たら、他の作家のミステリーシリーズも訳されているベテランでした。どうして編集者が手を入れなかったのかと思う箇所もあり、「好ましくない翻訳の例」を読んだ、ということで、翻訳の課題に当てるべき時間を怠けていた自分への言い訳にしました。

2008年11月23日日曜日

駒場祭へ行く

  今日は、友人Yと駒場祭へ行きました。お目当ては、私がサポーターをしているNPO「かものはしプロジェクト」の学生サークルが出している屋台 Asian Bistro KAMO です。カンボジア風揚げパンの「ノムパンチェン」を売っているというので、どんな物かと楽しみにしていました。小学校の給食で頂いた、砂糖をまぶした揚げコッペパンのような物を想像していたら、塩味でした。作り方をネットで検索したところ、スライスしたバケットに、みじん切りにした人参、春雨、きくらげ、ねぎ等と、豚ミンチと卵を混ぜて練ったものを塗り、油で揚げるそうです。フランスの植民地時代の名残りの、フランスとカンボジアのミックス料理の一つですね。
  Asian Bistro KAMO は正門のすぐそばに出店していたので、駒場祭の第1の目的は早々と済み、あとは屋台の冷やかしと、広いキャンパスの散策を楽しみました。うるさいほどの銀杏の葉が黄金色に色づき、空と地面を金色に染めていました。それで本郷キャンパスを思い出しました。十年ほど前、本郷キャンパスにある東京大学出版会でアルバイトをしていたのですが、本郷にも銀杏が多く、秋は落ち葉で焚き火をしていました。本郷キャンパスの広さにも驚きますが、駒場キャンパスも広かったです。前庭には何棟もの校舎群、裏庭はラグビー、テニス、野球、陸上競技などのグラウンド、茶室などがありました。
  それから、楽天の三木谷浩史氏と、参議院議員兼中央大学客員教授の鈴木寛氏のトークショー「明日が楽しみになる120分」も聴きました。社会で活躍していく際の心構えや、それに備えて学生は今何をしておくべきか、といった内容で、予想以上に考えさせられ、ためになりました。

2008年11月22日土曜日

In The Gloaming ―「薄暮のなかで」私訳Ⅳ

  昨夜はレアード・コーニングの『白い家の少女』を読み返し、今日は、やっとホームズのThe Disappearance of Lady Frances Carfax(「フランシス・カーファックス姫の失踪」)を読み終えました。

  昨日は翻訳講座へ行き、In The Gloaming の翻訳を進めました。今日掲載するのは、11月8日に掲載した箇所の続きですが、一部省略があります。レアードがジャネットへ様々な質問をして親子の会話が弾む場面があるのですが、そこは授業ではカットされました。今日、掲載するのは、翌朝以降の場面からです。講義の日程の都合で、中篇を全部訳すのは難しいので、今後も翻訳を割愛する箇所が出てくると思います。と書きつつ、何人の方がこの連載を読んで下さっているのかギモンですが。

薄暮のなかで Ⅳ

 翌日、レアードがまたむすっとしていた時はジャネットも心配したが、その夜も、それに続く夜も、夕暮れは魔力を発揮した。彼女は戸外のテーブルに夕食を整え、マーティンが書斎の胃袋に飲み込まれてしまうと、彼女とレアードは話し始めるのだった。二人の周りの空気は、互いに知りたい、知って貰おう、として醸し出されるエネルギーに満ちているようだった。他の人達も、これほど誰かと深く関わり合うことがあるのだろうか、と思った。彼女は、誰とも、こんなに深く結び付いたことはなかった。明らかに彼女とマーティンは決して本当には結びついてはいない、魂と魂とでは。友人達に関しては、どんなに忠実で信頼できる相手でも、こちらが相手を遠ざけてしまわないよう、いつも気を遣わねばならなかった。もちろん、友人達には彼女と縁を切るという選択肢があり、マーティンはいつでも離婚を請求できるが、レアードは“囚われの聴衆”のようなものだった。否応もなく相手の話を聞かなければならない。親と子は、お互いに切っても切れぬ縁で結び付けられているのだ。そのわりには、お互いの話を理解する度合いは、驚くほどわずかだ。みんな、注意を払うのを早々と止めてしまい、相手のことはすっかり分かったと思ってしまう。ジャネット自身も、そうした間違いを犯していた。彼女は娘の家へ行き、アンが家の中をこざっぱりと片付けているのを見ると、いまだに驚いていた。彼女にとって、アンはいまだに、セーターはクローゼットの隅に、キャンディーの包み紙はベッドの下へ投げ込む、だらしのないティーンエイジャーだった。レアードが、女の子たちに興味を示さないことにも、まだ驚いていた。彼は女の子に興味があったではないか? ジャネットは、彼の帰りに耳を澄まして、目を覚ましたまま横になり、彼が受けた性教育の知恵を活かして、きちんと避妊してくれたら、と願ったことを思い出した。
 今や、そうした思い込みを払拭するチャンスだった。彼女はレアードのすべてが好きなわけではないし――まだよく分からない面も沢山あるが――何もかも、すっかり知っておきたかった。毎朝、目が覚め、少したってから頭がすっきりしてくると、レアードがふたたび小さくて完璧な赤ん坊になり、今日一日、その成長が楽しみにできるかのように、愛と感謝に胸が疼いているのに気づくのだった。そしてすぐに、二人のたそがれどきが待ち遠しくなる。半ば冗談に、半ば期待を込めて、日刊紙の星占い欄を読む代わりに、日没の時刻を調べるのが新たな習慣となり、夏が衰えるごとに日没が早くなるのを見て、満足を覚えた。それは、たそがれどきまで長く待たなくていい、ということを意味したから。その時間をさらに縮めようとして、朝も遅くまで眠っていた。おかしいのは、自分でもわかっていた。恋にのぼせた女の子のように、馬鹿げた振る舞いをしていた。二度と経験しないだろうと思っていた感情が、今こうして蘇ってきたのだ。ジャネットはその想いに浸り、たそがれどきを待って生きていた。レアードの意識が活発になった印に瞳が輝き始める、そのときために。それから、本当の一日が始まるのだ。
(続く)
 

2008年11月18日火曜日

「ブーリン家の姉妹」を観る

  昨夜、日比谷シャンテシネで「ブーリン家の姉妹」を観ました。ヘンリー八世の寵愛を争ったブーリン家の姉妹のドラマで、一緒に観た友人は楽しんでいたようですが、私には史劇としても、心理ドラマとしても中途半端で、今一つでした。もちろん、中世英国のコスチュームや宮廷の雰囲気は目一杯楽しみましたが。私が感じたのは、国王や権力者って孤独だなぁということです。一人の男性、一人の人間としてヘンリー八世を愛した人っているのでしょうか? 私は結構です。映画ではわりとまともなルックスでしたが、実物のこのルックスであの性格では、とてもたまりません。

2008年11月14日金曜日

今年最後の二木会に出席

  昨夜は、「かものはしプロジェクト」の、今年最後の二木会に参加しました。「かものはし」は、カンボジアの児童買春防止に取り組んでいるNPOです。毎週第二木曜日に、社会人向けの活動説明会兼近況報告兼懇親会があり、今まで懇親会は出ないか、途中で帰っていたのですが、翌日は仕事がないので、昨夜は懇親会に最後まで残り、スタッフや私のようなサポーターとの会話を楽しみました。5ヵ月ぶりに帰国されたカンボジア駐在員のお話などが伺えて、有意義な一夜でした。

2008年11月13日木曜日

ヴィルヘルム・ハンマースホイ展へ行く

  昨日、ほぼ二月ぶりに美術展へ行きました。国立西洋美術館の「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展です。感銘を受けてその前で立ち尽くすような絵こそなかったものの、久し振りに美術館へ行き、目の保養をしたことで、気づかぬうちに欠けていた心のジグソーパズルの一片がピタッとはまったような、大切な何かを取り戻した気がしました。
  雨天の平日のわりには閲覧者が多く、これで晴天の休日だったらどんなに混んでいたかと思います。日本で知名度が高かったとも思えないのですが、小津安二郎的な静謐でストイックな画風が受けるのでしょうか。
  ハンマースホイは19世紀後半から20世紀始めのデンマークの画家で、画面の静謐さは誰もがフェルメールを連想しますが、フェルメールの温かみはありません。1枚の絵に複数の人物が描かれていても、その人物同士をつなぐ心の輪がなく、てんでばらばらな印象を受け、観ていてあまり幸福な気持ちにはなれません。彼の他者を観る眼差しや、そこから推測される内弁慶らしい内面性が好きになれない私としては、人物のいない一連の室内画が良かったです。一番いいと思ったのは「ゲントフテ湖、天気雨」でした。彼がよく避暑をしたという避暑地の湖に、お天気雨が降っている絵で、空の広がりと灰白色の雲の微妙な色彩、無人の湖畔の木立、雨に打たれて鈍くきらめく湖面に、しばし見入って疲れを休めました。この日は心身ともにやや疲れており、その疲れを癒すべく、静かな絵を観に来たのです。

2008年11月9日日曜日

遅刻魔の誠実さとは?

  2週間ほど前に、自宅のパソコンのスクリーンセーバーの文字を変えました。「知行合一・至誠天に通ず」から「至誠通天」だけにしました。「知行合一」は、尊敬しているX 氏の座右の銘で、スクリーンセーバーに入れておられると聞き、始めはそれを真似していたのです。黒いスクリーンセーバーを横切るピンクの太字の「知行合一」はかなり目を引き、何気なく目にするたびに気が引き締まったものです。
  知っていることや考えたことは実践せよ、という「知行合一」という言葉は、好きな言葉の一つではありますが、私が一番好きなのは「至誠天に通ず」(至誠通天)なので、「知行合一」だけではオリジナリティがなさすぎると思い、後から「知行合一・至誠天に通ず」にして、数ヵ月間そのままにしていました。でも、文字数が多すぎるのですよね。後方の「に通ず」あたりは文字がモザイク状になって、よく読めませんでした。それで思い切って一番好きな言葉だけにしようと、「至誠通天」へ変えました。
  X氏は「知行合一」を地で行っている方ですが、私が「至誠天に通ず」という言葉にこだわるのは、実践できていないからです。なにより誠実な人間でありたいと願いながら、実際は逆のこともよくしてしまう、誠実さの花壇の周りに、いつも芽を出そうと待ち構えている不誠実の雑草と闘っている気がします。おそらく誰の心にも潜んでいる不誠実さ、ずるさは、『星の王子さま』のバオバブの木のようなものではないでしょうか。バオバブはあまり大きくなるともう引き抜けないし、数が多くなりすぎると星を破裂させてしまいます。ロス疑惑の三浦和義氏の最期や、小室哲哉氏の詐欺事件は、たとえ社会的には成功していたとしても、身近な人々や物事に対する不誠実さが積もり積もった結果はああなるのだという教訓として、私の目には映ります。だからこそ、自他の誠実さというものは、どんな些細なものであれ大切にしなければならない、そして真に誠実な心で願った誠実な目標は、いつかは必ず実現されるだろう、という自戒と期待を込めて「至誠通天」をスクリーンセーバーに入れたのですが・・・・・・これを読んだ私の身近な人たちは、どう思っておられることでしょう?(皆さん、待ち合わせにしょっちゅう遅れてごめんなさい。)

2008年11月8日土曜日

『バーネット探偵社』を読み返して

  思うように英語が上達しないため、このところ英語に食傷気味で、英語やその翻訳物以外の作品を読むのが気楽で、楽しく感じます。そこで中学校以来、久しぶりに『バーネット探偵社―ルパン傑作集〈7〉』 (新潮文庫)を読みました。アルセーヌ・ルパンがジム・バーネットと名乗って調査費無料の探偵事務所を開き、事件を解決すると同時に、金持ちや後ろ暗いところのある人物からピンハネをする、というミステリー短編集です。中学生時代はルパン・ファンの友人と、ホームズ・ファンの私とで中傷合戦をしたものですが、この本を初めて読んだのは、この友人から借りてでした。
  今回、読み返して、大まかにでも覚えていたのは「したたる水滴」と「偶然が奇跡を作る」の二編でした。前者は、財産目当てに結婚した妻への夫の復讐を、ルパンが逆手に取って素晴らしい宝石を手に入れ、後者は気位の高い伯爵令嬢が、加害者から贈られた小切手を破るのを見越して、予め期限の切れた小切手と掏り替え、十万フランを懐に入れるという結末です。心理的な推理という面でも、恋愛沙汰が飛び交っている点でも、フランス的なミステリーです。
  中学生の時、気が付かなかったのは、フォリー・ベルジェール座の話が出ていたことでした。モーパッサンの『ベラミ』にも出てくる、有名なミュージック・ホールです。「白手袋・・・・・・白いゲートル」で、フォリー・ベルジェールのアクロバット歌手とルパンは恋に落ち、事件解決後、二人は旅にでます。旅行中、ルパンは事務所にこんな貼り紙をしておきます。
  「恋愛中につき休業。蜜月後再開。」

In The Gloaming―「薄暮のなかで」私訳Ⅲ

  昨日、1ヵ月ぶりに翻訳学校へ行きました。通常は隔週の金曜日に講義があるのですが、先生のご都合で1回休講となったので、前回から4週間ぶりの講義になりました。校舎も、先生も、私たち受講生も、格段に変わりはありませんでしたが、少しばかり懐かしい気がしました。
  以下は、講義で翻訳中の In The Gloaming の私訳の続きです。前回分は10月10日に掲載しました。

薄暮のなかで Ⅲ

 彼は微笑し、物問いたげに彼女を見た。
「母さんは、一日が終わるのが切ないんじゃないかって、いつも思ってたけど、そうじゃなくて、夏の夜のスコットランドのハイランドみたいに、あたりが紫の光に包まれる、美しいひとときなんだって、言ってたね」
「そうよ。地面がみんなヒースに覆われたみたいで」
「スコットランドに行けなくて、残念だった」と彼は言った。
「それでもスコットランドの男よ、おまえはね。少なくとも、私のほうの血筋では」と彼女は言った。スコットランドへ行かないかと誘ったことがあったが、彼は興味を示さなかったのだ。その時はもう大学生で、自分のしたい事ははっきりしていて、それはジャネットのとはまったく違っていたのだ。「たそがれ(グロウミング)の話をした時のことを覚えているなんて、驚いた。おまえは、七歳ぐらいだったはずだもの」
「最近は、いろんなことを思い出す」
「そう?」
「とても小さかった時のことばかりだけど。母さんに、また世話してもらっているからじゃないかな。たまに目を覚まして母さんの顔を見ると、ベビーベッドをのぞきこんでいた母さんを思い出せそうな気がするんだ。そのとき着ていた服まで」
「あら、まあ!」ジャネットは朗らかに笑った。
「いつも、とってもいい顔をしてたよ」と彼は言った。
 思いがけない言葉に、彼女は驚いた。そして思い出した――レアードのベビーベッドにかがみ込んだら、自分が赤ん坊の頃、母親の顔を見上げたことを、突然思い出したのを。「おまえの言うこと、分かるわ」
「そう、分かってくれるよね?」
 彼は、ジャネットがドキリとするほど、じっと彼女を見た。思わず片足を振り子のようにブラブラ振っていたのにジャネットは気づいて、止めた。
「ママ。しておかなきゃいけないことがまだ幾つかあるんだ。例えば、遺言状を書くとか」
 ジャネットの心臓は止まりそうになった。彼の前ではいつも、彼が良くなるようなことを言っていたのだ。他の可能性について話し合う自信はなかった。
「ありがとう」彼は言った。
「なんで?」
「そんなことするにはまだ時間がたっぷりあるじゃない、とか、その手の気休めを言わないでいてくれて」
「ありきたりなことを言いたくなかっただけよ、時間がないと思っているわけじゃないわ」
「まだまだ先のことだと思う?」
 彼女はためらった。それに気づいて、彼は少し身を乗り出した。「時間はたっぷりあると思うわ」と彼女は言った。
「おれが健康でも、遺言状を作っておくっていうのはいい考えだろう?」
「そうね」
「手遅れになる前にやっておきたいんだ。母さんだって、おれが突然、看護師たちに何もかも遺すなんてことして欲しくないだろう?」
 ジャネットは声を立てて笑った、彼の冗談がまた聞けて嬉しかった。「分かった、分かった。弁護士に電話するわ」
(続く)

2008年11月5日水曜日

オバマ氏の勝利に思う

  今日、バラック・オバマ氏が第44代米大統領に決定しました。その熱狂ぶりをラジオで聴き、マリー・アントアネットとルイ16世が王位継承した時も、こんなふうではなかったかと思いました。ルイ14世と15世の政権下で、戦争と宮廷の奢侈に苦しんでいた民衆が、清楚なイメージの十代の新国王夫妻の誕生に心を洗われ、「これで世の中は良くなるだろう」と期待したのも分かる気がします。
  私は政治的にはマイノリティーの支持者なので、ライス米国務長官のファンですし、ヒラリー・クリントン氏とバラック・オバマ氏の大統領指名候補戦では、二人とも支持していました。どちらかと言えばヒラリー派でしたが。とはいえ、初の黒人大統領の誕生は嬉しいです。オバマ氏の大統領就任は来年ですし、米国のような超大国では国家元首一人が替わったからと言って状況が急に改善するわけではありませんが、それでも海外派兵の縮小や、既に身近に感じられる金融危機の逼迫感が緩和され、景気が回復することに期待をかけずにはおれません。

2008年11月2日日曜日

まとまりのない週末

  昨日、友人Eが順天堂医院を退院しました。私が思っていたより重症で、手術の翌日は本当にぐったりしていましたが、日ごとに顔色が良くなっていき、無事、退院できたので安心しました。昼に退院して、医院内のレストランで昼食をとり、東京駅までお見送りをしました。すっかり回復したわけではないEは、東京駅の構内を休み休み進みました。健康の有難さや、看護師の仕事の大変さを実感した1週間でした。

  Eを見送ってから飯田橋へ戻り、友人Pとトルコ料理店へ行きました。四十ヵ国ぐらい旅行したという方で、最近、コロンビアとペルー旅行から帰ったところです。コロンビアは首都ボゴタにだけ行ったとのことですが、思っていたより安全だったそうです。そんな旅の話を肴にトルコ料理と、トルコ人らしい若いダンサーのベリーダンスを楽しみ・・・・・・なんだか、まとまりのない一日でした。

  今日はホームズの「ブルース・パーティントン設計図」の原書を読み終え、ついでにそのDVD版も観ました。国家機密のブルース・パーティントン型潜水艦の設計図が兵器工場から盗まれ、その設計図の一部をポケットに入れた兵器工場の職員の死体が発見され、殺人者は誰か、設計図を盗んだのは誰か、その行方は?という国家問題を、シャーロックの兄マイクロフトが依頼するのです。ラストシーンは、原作よりDVD版のほうが気持ち良かったです。ワトスンも活躍したにも関わらず、原作ではホームズだけがウインザー城に招かれて女王から贈り物を賜るのですが、DVD版では、ホームズとワトスンとマイクロフトが、設計図を買い取ったスパイが逮捕されるのを見守った後で、マイクロフトが「Rの付く月だから、クラブで牡蠣をごちそうしよう」と2人に言うのです。

  今はサラ・ウォーターズの『半身』 (創元推理文庫)を読み返しています。ヴィクトリア朝時代のロンドンの監獄を舞台にしたミステリーです。レズビアニズムの気配の濃厚さが、レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』を想わせます。老嬢になりかけた貴婦人マーガレットが監獄への慰問を続けるうちに、一人の可憐な女囚シライナに惹かれていきます。彼女は霊媒で、投獄前の霊媒の暮らしぶりを綴る彼女の日記と、マーガレットの日記とで物語は交互に語られていき、最後のドンデン返しにはアッと言わされます。これはブッカー賞の最終候補作品になりました。