2010年9月12日日曜日

涼しくなって

9月8日に東京国立近代美術館の上村松園展へ行った。この日は朝から雨が降っていたが、最寄りの地下鉄の駅を出た時は雨が最高潮に達していて、数年ぶりに経験する土砂降りだった。歩道と横断歩道の段差の所にできた水溜りで革靴をびっしょり濡らしてしまい、おかげで大昔に予備校で教わった英語の不規則動詞の暗記法を数年ぶりに思い出した。それはこういうものだった。「ピッチピッチ、チャップチャップ、run, ran, run」

この日から秋が来た。ニュースでは相変わらず猛暑を伝えているし、寝苦しい夜もある。しかし、それは衰え行く季節の最後のあがきだ。店頭にはもう栗も梨も柿も並んでいる。そうして夏の間は食べる気も作る気もしなかったビスケットを作りたくなった。バターとオーブンを使うビスケットやパイは、ヨーロッパの涼しい気候には良く合うだろう。冬にオーブンを使うと我が家の狭い台所はすぐ暖かくなって、まことに具合がいい。しかし夏にオーブンを使うと暑くてたまらないし、バターと小麦粉で作るビスケットやパイの生地なんぞは湿気と暑さでべチャーと伸びて、うまくまとまらないのだ。
夏の始めに「モラセス」という糖蜜のシロップを買った。ジンジャービスケットを作るためだ。この「糖蜜」は英国の小説にときどき出てくるので、どんな味がするんだろうと前から思っていた。これは精製していない砂糖のシロップで、食べてみたら何のことはない、黒蜜の味だった。これを買って間もなく蒸し暑さが厳しくなり、ビスケットなぞの洋菓子を作る気がしなくなったので、ほとんど使わないまま放っておいた。やっと涼しくなったので、これを使ってビスケットを焼こうという気になっている。

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