2013年6月15日土曜日

アントニオ・ロペスの『マリアの肖像』

先週と今週は現代美術を観た。現役で活躍中の画家の作品を観に行くというのは、私には珍しいことだ。いつも、とうの昔にお亡くなりになった巨匠の作品ばかり観ているので。
 まず、先週末に行ったのが国立新美術館の「現展」だ。現代美術家協会の公募展で、小田島久則氏の作品を観に行った。小田島氏と知り合ったのは昨年末で、職場の近くの小さなギャラリーで個展を開かれていた折りに話をしたのがきっかけだ。先日、「現展」の案内状を頂いたので行ったのだが、小田島氏の作品が一番良かった。どうも現代美術、ことに抽象画は何が描いてあるのか分からなくて苦手だ。小田島氏の作品は輪郭も色彩も明瞭で、動物が主人公のメルヘンチックな画風だが写実的で、実に私の好みだ。

 昨日の金曜日は「アントニオ・ロペス展」を観に、Bunkamura ミュージアムへ行った。アントニオ・ロペスはスペインの画家・彫刻家だということを、この美術展で初めて知った。ポスターピースの少女の絵()が良かったので行ったのだが、やはりこの作品が一番良かった。ロペスの娘の半身像、『マリアの肖像』だ。驚いたのは、これが鉛筆画だったということだ。鉛筆の濃淡だけでここまで写実的な絵が描けるのだ! 人の背丈よりも大きな作品『バスルーム』も鉛筆画で、これにも驚いた。
 人の心を素直に打つ作品というのは、題材が作家が日ごろ目にしている身近な対象か、愛情を抱いている対象だと思っているが、『マリアの肖像』はその両方を兼ね備えている。ロペスが妻と子どもを大切にし、家庭円満だからこそ画業に没頭できているらしいのは作品から伝わってくる。その愛娘の肖像画は写実的でもあり、男親の娘に対する愛おしみも伝わってくる。
 そう、彼の絵は実にリアルだ。この美術展のキャッチコピーも「現代スペイン・リアリズムの巨匠」である。特に風景画は写実的だ。マドリードの王宮の庭園、カンポ・デル・モーロを俯瞰した『カンポ・デル・モーロ』などの大きな風景画は、少し離れた場所から観るとまるで写真だ。もう一つのポスターピース『グラン・ビア』も写真のようだが、このマドリードの繁華街の、夏の早朝の20、30分間だけの景色を描くために7年間も街角に通ったという。それなら写真のほうが適しているのではないか、そもそもこれだけ映像技術が発達した時代に、絵画に写実性を追求する意味は何なのだろう、と考えている。

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