2013年6月23日日曜日

『ホビット 思いがけない冒険』 -ホビットはいずこ?

今年のお正月にBBCのテレビドラマ『シャーロック』を観て以来、シャーロック・ホームズ役のベネディクト・カンバーバッチに夢中だ。彼の出演映画をDVDで少しずつ観ているが、今週末はジョン・ワトスン役のマーティン・フリーマン主演の『ホビット 思いがけない冒険』を観た。トールキンの原作は素朴なファンタジーだが、映画はジェットコースターのようにハラハラ、ドキドキの連続で、約3時間の上映時間があっと言う間に過ぎてしまう。心臓の弱い高齢者には勧められないが、この映画を観ながら他界できたらそれはそれで大往生という気もする。
 話が逸れたが、原作の文学作品と、脚本化された映画や芝居、テレビドラマとは別の作品だ。という認識でこの『ホビット』を観た。龍に祖国を奪われたドワーフという小人族の祖国奪還の闘いに、平和を好む小人のホビット族の一人、ビルボ・バギンズが参加する、というストーリーだが、原作ではホビット族のビルボが主役であるのに対し、映画では彼はレポーター的な役回りだ。映画では流離の戦士集団ドワーフ族の旅と闘いに脚光が当てられ、彼らの歴史や国を追われた経緯、周辺の部族達との敵・味方関係などを、ビルボの視点を通して視聴者は理解していく。ビルボは、同じ時刻の電車の、同じ座席に乗って通勤する保守的な英国人のメタファで、単調で平和な日常生活に満足しきって、それを搔き乱すような出来事は好まない。半人半獣のオーク族、妖精のようなエルフ族などの出会いと闘いでファンタジーの世界にのめり込んでいる時に、このホビット君が登場すると一気に英国の茶の間が出現して物語が日常性を帯び、魔術的リアリズムの世界になる。それはマーティン・フリーマンのキャラクターの魅力でもある。
 ベネディクト・カンバーバッチの、演じる役柄になりきってカメレオンのようにキャラクターや容貌を変える演技力は素晴らしいと思っていたが、どの役でもあまり自分の持ち味を変えずに、それでいて役柄になりきっているマーティン・フリーマンの演技力も素晴らしいと思った。いい役者にも様々なタイプがあるのだ。
 従軍記者的な非戦闘員だったビルボ・バギンズが、戦闘の連続の中でやむを得ず武器を取り、戦士へ成長していくのもこの映画の魅力の一つである。

 この映画の中で私が一番魅了されたキャラクターは、ドワーフ族の王、トーリン・オーケンシールドだ。原作では怒りっぽい老人で、映画では素敵な中年だが、共通しているのは欧米人が思い描くところのリーダーの資質を備えている点だ。攻撃の時は先頭に立ち、退却に際してはしんがりを務め、部下達が避難したのを見届けてから最後に退却する。部下の命には常に責任を持ち、強い意志力と頭の良さを備え、そのかわり傲慢で頑固だったりもするが、もしこんなリーダーが本当にいたら付いて行きたくなるだうろ。脚本家や監督は、彼を通して理想のリーダー像を描いているのかもしれない。
 私はこの手の「小さな集団のリーダー」というキャラクターには弱い。トーリン役のリチャード・アーミティッジは素敵なバリトン・ボイスだし。ベネディクト・カンバーバッチが好きな理由の一つも、彼のバリトン・ボイスだ。上の写真の先頭にいるのがトーリンで、ホビットのマーティン・フリーマンはどこにいるのだろう?

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